発汗と水分補給 ~効果的なウオーターローディング~

人体は、その約60%(体水分比:45~70%(血液90%、心臓:80%、筋肉・肝臓:72~75%、脂肪:5(20)%)が水分で構成され、1日に約2リットルの水を摂取し、そして排泄しています。この収支バランスを保つことにより、体の細胞や組織は正常な機能を営んでいます。通常、ヒトは水分の約2分の1を食品から摂取しています。

成人男性において、健常時の全体液(細胞液+細胞外液)は体重の60%を占めます。
内訳は、体重に対して細胞内液が40%、組織液15%、血液(血漿のみ)・リンパ液が4.5%、その他の体液などが0.5%です。脂肪組織はほとんどが水分を含まないため、男性に比べて脂肪が多い成人女性では、体重に対する体液の比率が男性の8割程度です。
体液比は、新生児で細胞外液量が多いため最も多く約78%、年齢と共に減少していき、4歳位で成人とほぼ同じ比率になり、老人では細胞内液量の減少により約50%まで低下します。

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水分は、食品の性状を表す最も基本的な成分の一つであり、食品の構造の維持に寄与しています。
体に入ってくる水分は飲料から1,200ml、食品から800ml、体内の代謝によって生じる水を代謝水といい、1日200~300ml程度です。

出て行く水分は尿が1,200ml、不感蒸泄が900ml、大便が100mlです。よって、腎不全により尿量が減少したときの水分摂取の目安は、前日の尿量に不感蒸泄を加えた量とします。この場合の水分摂取量は飲料だけでなく食品に含まれている量も合わせて計算する必要があります。
糖質と脂質が体内で完全燃焼してできる老廃物は水と二酸化炭素です。二酸化炭素は肺から空気中に排泄されます。水は尿中に排泄されるだけでなく、1日に約900~1000mlが不感蒸泄として皮膚から蒸発しています。

V.カッチ他著、田中喜代次他監訳『運動生理学大事典』西村書店、2017年、p.70を改変
「熱エネルギー600kcal当たり、発汗による水分喪失は1ℓとなる。・・・体重の2〜3%にあたる発汗は血漿量を低下させる。この水分量の喪失は、循環機能や運動能力、体温調節機能を低下させることになる。」
1時間の有酸素運動で、平均的若年男性は約600kcal、平均的若年女性は約400kcalのエネルギーを消費するので、これに伴う発汗量は、男性で体重の1.5%、女性で1.3%程度と計算できるので、この程度の運動であれば、あまり水分補給に神経質になる必要はないことがわかります。
なお、ここでの「1時間の有酸素運動」というのは、1時間の運動プログラムのことではありません。ウォーミングアップやクールダウンを含まない、実運動時間ことです。このため、運動プログラムの時間としては、75分程度に相当します。
発汗量は、環境温度や湿度によって大幅に変化します。
室内であれば、適切に空調することが不可欠です。
屋外(空調のない室内を含む)であれば、30分毎に体重を計測し、実際の発汗量を把握する必要があります。

発汗(Sweating)
汗は、血液中の血漿をろ過し、身体に必要な成分を取り除いた水分で、汗腺から放出されます。

皮膚には汗腺(sweat gland)と呼ばれる汗を分泌する腺が、皮膚表面(1~3mm)の真皮層~皮下組織にあり、主に以下の3種類が存在します。

エクリン腺(Eccrine sweat glands) は全身にあり、部位により密集度が異なります。
アポクリン腺(Apocrine sweat glands)は、エクリン腺よりも大きく、分泌機構も異なり、毛が生えている部分に多くあります。

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【効果】
1. 体温の調節
暑いときは、体温特に脳の温度が上がらないように汗をかき、体の内にこもった熱を外に出すように働きます。
運動経験が多い人は、広い面積で、うっすらと汗をかきます。広い面積で汗をかいた方が蒸発しやすいからです。また、体水分を無駄にしないように(脱水を予防するために)、流れ落ちないようにうっすらと汗をかきます。身体が高体温に適応しているからです。これを「暑熱馴化」といいます。
一般的に汗をかきにくい人は、低活動の人に多く、高体温に慣れていないので、汗腺が発達していないことを意味します。真っ赤な顔をしているのに、汗をかいていない人が特に危険で、シャツの胸や背中に汗をかかず、顔から汗が滴り落ちている場合は、暑熱馴化ができていないことを表しています。

ある物質が液体から気体になるためには、分子が液体の表面から飛び出す必要があります。液体が蒸発する際に、分子が飛び出すために必要なエネルギーを得るため、周囲から熱を奪うことを気化熱といいます。

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脳の適温は37℃とされ、1℃上昇すると朦朧とし、2℃で思考力が低下し、それ以上で意識障害を起こします。

2. 老廃物の排泄
体の中で生じた老廃物や、体の中に入った有害物質は、体の中の水分と一緒になって排泄されます。

3. 体内の水分量の調節
体の水分量は、汗と尿で調節されています。

4. 保湿
汗とともに分泌される皮脂で表皮を乾燥から守り、肌の潤いを維持します。

【種類】
発汗の原因による主な分類は、以下の4種類があります。

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熱中症
医学における脱水(Dehydration)とは、体内の水分量が不足した状態を言います。
脱水は、水分喪失量に対して水分摂取量が不足することが原因で起こります。実際には、水分の摂取が不足すると、同時に喪失も亢進することがあります。

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【予防対策】
熱中症は、対処法以上にならないための予防対策が重要です。

1. 脱水症の予防
熱中症の背景には脱水症が潜んでいるため、脱水症予防は熱中症を予防するうえでも大切なのです。

高温の環境で運動や労働を行うと、熱中症が起こります。
熱中症は、体液の不足で起こる障害と体温上昇で起こる障害の総称です。
高温の環境で運動や労働を行うと体温が上がり、体温を下げるために発汗が起こります。汗は蒸発するときに気化熱を奪い、“打ち水効果”で体温を下げる働きがあるのです。しかし、発汗で体液が失われると、水分の不足から栄養素、酸素、老廃物の出し入れが滞り、電解質の不足から障害が起こります。
さらに発汗が続き、体液が失われると、体は体液のそれ以上の喪失にブレーキをかけるために、発汗にストップをかけます。すると発汗で体温が下げられなくなり、体温上昇で障害が起こります。
発汗による体温調節機構が維持できなくなると、カラダ中の臓器にダメージが及びます。最も影響を受けやすいのは脳で、けいれんや意識障害などが起こることがあります。
体温上昇→発汗→体液不足(脱水症)→発汗ストップ→熱中症

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2. 脱水症の認知
熱中症の予防の基本は脱水症の予防です。そのためには外的な予防と内的な予防があります。
外的な予防には脱水症を起こしやすい環境の改善、内的な予防は脱水症に対する防衛体力を養うことです。

(1) 外的な予防
① 涼しい服装
② 風通しを良くする
③ 気温、湿度を下げる
④ WBGT計を用いた指針を守る
BGT(湿球黒球温度)計とは、気温・湿度・輻射熱(赤外線などを吸収した物体から発生する熱)の3つを取り入れた指標です。数値により熱中症に関して「ほぼ安全」「注意」「警戒」「厳重警戒」「運動は原則中止」という5段階に分けられます。これに従い、無理な労働や運動をしないことが大切です。

(2) 内的な予防
① 無理なダイエットなどで食事や飲み物を制限しないようにします。
② 十分な水分と電解質を補給します。発汗を伴うような運動では水分と電解質の補給を欠かさないようにしてください。
③ 十分な睡眠をとり、休息します。
④ 適度な運動で筋力を保ち、汗がかける体質になる

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【分類】
熱中症(Heat disorder)は「どのくらい症状が重たいか」という重症度により、Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3つに分類されます。
従来は、熱けいれん、熱疲労、熱射病、熱失神の4つに分類されていましたが、重症度と相関していない部分があったため、重症度に応じた治療が行いやすいように分類が改められたのです。

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※悪性高体温
悪性高体温(malignant hyperthermia)とは、麻酔時や激しい運動時に、薬物や温熱刺激によって体温が急激に42℃以上に発熱する病態であり、横紋筋が融解してしまいます。

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水分補給(Water loading,Hydration)
水分は、溶媒・潤滑液・運搬液、そしてアスリートにとって特に大切な冷却液としての役割など、人間が生命を維持するために欠くことのできない要素です。運動中体温が上昇しますと、皮膚から発汗が始まり、汗が蒸発すると共に熱も奪われて体温が下がります。その時、体内に十分な水分がないと、体温調節の機能が低下し、熱中症の原因となります。

【成分】
これまでに、放射性同位元素などを用いて研究されてきた通り、胃からの糖溶液は、含まれるカロリーに応じて、胃からの滞留時間が遅くなります。
安静時では、350mℓの純水は約12分で50%が胃から小腸に送られます。しかし、10%グルコース溶液では、同じ量を腸へ輸送するのに40分近くもかかり、運動中の飲料としては輸送が遅過ぎます。糖濃度によって胃の滞留時間が異なるのは、十二指腸にある化学センサーが、胃から送られてくる内容の判断を行って幽門からの内容物の輸送にフィードバック的に調節を行っていると考えられています。高カロリーの糖溶液は、小腸での吸収時間を確保するために、ゆっくり輸送されます。
このような結果から最近では、浸透圧はそれほど大きな問題ではなく、グルコース濃度が重要視されてきています。
デキストリンやフルクトースは、同じカロリーでもグルコースに比べてやや胃内滞留時間が短いと報告されています。

〈運動が45分未満の場合〉
糖分の補給は必要ないため水で水分補給します。
ただし、水も千差万別で適切な水を選択しうる知識が大切です。
選択基準の重要な要素が、硝酸態窒素です。
硝酸態窒素は、水中の硝酸イオンと硝酸塩に含まれている窒素のことです。
硝酸態窒素が、体内で亜硝酸態窒素に変化すると、発ガン物質になり、毒性も強くなります。
硝酸態窒素の危険性は硝酸塩と同じで、血液の酸素運搬能力を奪い、特に乳幼児を窒息死の危険にさらします。
水道水には厚生労働省が「硝酸態窒素および亜硝酸態窒素」の基準を10mg/ℓと設定し、環境省も水に同じ環境基準を設定しています。

1. 地下水
2007年2月の調査によると、青森、神奈川、和歌山、岡山では、並んで待って汲む名水なのに、県庁所在地の水道原水の汚染最大値より汚い水でした。
硝酸態窒素による汚染は、主に地下水で進むので、名水の汚染レベルは高くなります。

「名水100選」に指定されている弘前市の「富田の清水」は、1994年に大腸菌が検出されて飲用停止になりましたが、紫外線殺菌して、翌年には販売が再開されました。しかし、硝酸態窒素による汚染が進み、飲用できなくなる日が近づいています。

青森市だけでなく、横浜市、和歌山市、岡山市に住む人は、近くの「名水100選」を汲んできて飲む方が、水道より危険です。

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1997年の調査によると、農村では、地下水の2割以上が硝酸態窒素の環境基準を上回ったと報告されました。汚染は悪化しているので、現在ではもっと基準違反が増えているはずです。
水道原水の22%は地下水から供給されているので、水道水さえ危険レベルに近づいた水が増えています。
硝酸態窒素は安定性の高い物質なので、浄水場では除去できません。だから水道原水の汚染が進むと、取水を停止するか、検出値の低い水と混ぜて使うかの、二者選択です。減ることはないので、摂取量は増えていきます。
硝酸態窒素による環境汚染は、家庭の水道水に直結しているわけです。

1945年、アメリカで硝酸態窒素の濃度が高い井戸水を飲んで、乳幼児が死亡したと判明してから、硝酸態窒素による水汚染が問題になりました。乳幼児は硝酸態窒素に非常に弱く、酸欠状態で体がブルーになって亡くなるケースが増えました。その後の5年間で、アメリカでは「ブルーベビー症」で39人の乳幼児が亡くなったので、地下水への対策をとらなければならなくなったのです。
ヨーロッパでも、1948~64年に乳幼児が80人死亡しました。そのため、地下水の硝酸態窒素の濃度を調べ、危険性の高い水は飲めないように規制されました。
その後、欧米でブルーベビー症はあまり起きなくなったと言われています。
自然には硝酸態窒素の浄化作用があり、特に水田は浄化作用が大きいのです。その上、日本では地下水がたまらずに流れているので、硝酸態窒素の汚染濃度が低く、ブルーベビー症は発生していないと言われてきました。ところが、この2007年1月6日付け東京新聞に、1995年に北関東でブルーベビーが発生していたと記事が出たのです。その後の発生は確認されていないとのことですが、環境基準を超えた井戸の数が2000年度には165本だったのが、2005年度には651本に増えていることから「軽度な中毒症状は各地で起きているとみられる」とも書かれていました。
そこで各地の名水を検査すると、許容値ギリギリの名水が見つかりました。
それで、水道水のデータを調べると、近くの大都市の水道水より、名水の方が汚れていることがあるという、思いもよらぬことが判明しました。やはり田舎では地下水が危険な状態になっていたのです。地下水を原水に用いた水道水を、乳幼児に与えるのは、もはや危険な段階に入りつつあります。
硝酸態窒素に対して、大人はかなり抵抗力があります。しかし、井戸水を飲んでいる人は対策が必要な時代に入っています。
また、赤ちゃんや胎児には毒性が強く現れます。田舎に住んでいる人で、これから子どもをつくろうと考えている方は、硝酸態窒素への対応を、優先順位の上位におくように生活を見直す必要があります。

日本では、水の硝酸態窒素汚染は、大正末期に化学肥料を用いるようになってから始まったといわれています。地下水の硝酸態窒素は、化学肥料59%、家畜排泄物37%によるという試算もあるほどで、化学肥料と家畜排泄物が主原因であることは間違いありません。
硝酸態窒素を減らすには、この2つとも減らさねばなりませんが、それは容易ではありません。
化学肥料を劇的に減らすには、耕地面積が0.1%もない有機農業を、日本の主流派にする必要があります。
家畜排泄物は、ヨーロッパでは前から規制が強化されていました。日本でも2004年11月から規制が強化されています。
これ以上減らすには、家畜の飼育数を減らし、輸入飼料を減らさねばなりません。しかし、牛のBSE、豚の口蹄疫、鳥インフルエンザと、食肉の輸入がしばしば急にストップしている折に、日本の畜産を急減させるわけにはいきません。

2. 浄水器の選択
硝酸態窒素は、今のところ浄水場では除去されません。
活性炭、中空糸膜、セラミックを使用した家庭用浄水器では硝酸態窒素を除去できず、加熱でも減りません。
逆浸透膜なら完璧に除去することができますが、そうすると純水になって、飲用水に適さない下痢しやすい水になってしまいます。純水にならない逆浸透膜の浄水器もありますが、そういう逆浸透膜は、硝酸態窒素だけでなく、他の汚染物質も十分に除去されません。
イオン交換樹脂を用いた浄水器にも同様の問題がありますが、こちらの方は少し期待できます。硝酸態窒素はよく取るのに、カルシウムなどのミネラルはあまり取らないイオン交換樹脂があるからです。そういうものをベースに、活性炭や中空糸膜を組み合わせた浄水器が、現状では、一番いい飲み水を得られる方法と思われます。

3. ミネラルウォーター
世界中で採水地の硝酸態窒素汚染が進み、有名10銘柄中8つから、硝酸態窒素が検出されました。
全国各地の水を集めてみると、41銘柄中33本は0.5ppm以下だったので、大手ブランド水より地域銘柄水の方が安全です。
硝酸態窒素がまったく検出されなかったものも、佐々長醸造製造の「早地峰霊水」など16本ありました。

地域別にみると、関東は調べた6銘柄の全てから見つかっています。
静岡県の富士宮市、富士市の4本からは検出されませんでした。富士山麓は汚染が進んでいないようですが、少し平地に降りると、実は水道水の汚染が進んでいます。
環境省指定の「名水」を謳う水は、ペットボトル調査でも、7本すべてが汚染されていました。
環境省指定の「名水100選」を謳った水や、採水地が名水100選の採水地に近い7本を選び硝酸態窒素汚染を調べました。
その結果、全く硝酸態窒素が検出されなかった水はありませんでした。
特に汚染がひどい銘柄もありませんでしたが、エヌアイエスフードサービスの「霧島の天然水」から1.2ppm、名水の里の「五代松ごろごろ水」、北海道ミネラルウォーターの「羊蹄のふきだし湧水」、富山ビバレッジの黒部源泉水の3本から0.5~1.2ppmの硝酸態窒素が見つかりました。
9名水を集め、8つが汚染されていたことが報告され、ペットボトルの検査でも名水の汚染が裏付けられました。
名水100選は、1985年に環境省が指定しました。21年間で周辺環境が変わったところが多いので、名水を過信してはいけません。

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〈運動が45分以上の場合〉
水分と糖分・ミネラル・ビタミンの補給が不可欠です。糖分補給により筋グリコーゲンを節約できます。

1. 糖質
運動前に大量の糖溶液を飲むと、血糖が上昇に伴いインスリン分泌され、続いて急激な低血糖になります。インスリンが分泌されると、脂肪の分解を抑制され、糖の分解だけに頼らざるをえなくなり、その結果、乳酸が急速に蓄積します。
長時間に及ぶ運動前の食物摂取のポイントは、インスリンを出さないというのが鉄則です。

研究では、マウスを用いた実験で、運動直前にグルコースを投与すると、限界水泳継続時間が有意に減少することが確認されています。水泳を開始して30分後に同じ量のグルコースを投与すると、今度は限界までの水泳継続時間が延長されます。

持久運動後半では、交感神経が活性化されて、神経末端からはノルアドレナリンの分泌が盛んになります。これは、非常時だから体中からエネルギーを供給しろという信号で、糖を貯蔵しているタイミングではないため、インスリンが出にくい状態になっています。貯蔵されていた糖や脂肪は、血中に放出されているこのタイミングでは、たとえ糖を摂取してもインスリンはあまり出ないため、糖分の摂取はエネルギー補給として有効です。

運動前や序盤では、糖濃度が高いとインスリンが分泌されるので不適切です。水と電解質の補給に重点を置いて非常に薄い糖と電解質の溶液が、最適です。脂肪代謝を促進するものであればさらに理想的です。
45分、75分、105分、135分、165分…と後になるほど濃い濃度の糖溶液を摂取するのが理想的です。時間が進むごとに、糖を摂取してもインスリンはあまり出ません。

体液の浸透圧280~300mOsm/kgに相当する5%ぶどう糖溶液を摂取します。
水分を吸収するとき、胃で摂り入れた水分中の濃度を調節し、体液より低い浸透圧※にして腸で吸収します。
水は浸透圧が最も低く、すぐに吸収されますが、体液が一気に薄まってしまうため、体が自発的に体外に放出してしまい、自発的脱水が起こります。糖質濃度が高いほど糖吸収は優れていますが、逆に水分吸収は低下します。
果糖は、運動中に摂取すると胃腸の不快感を招くことがあるので不適切です。

※浸透圧
浸透圧とは、半透膜(ヒトにおける細胞膜や血管壁)を通して濃度の低い溶液から濃度の高い溶液に溶媒が移動しようする圧力のことを指し、濃度の高い溶液が濃度の低い溶液を引き込む力。
浸透圧は溶液中に含まれている粒子の数に比例します。ぶどう糖などの個数(分子の数)、NaやKイオンに左右され、個数が多いほど浸透圧が高く、少ないほど低くなります。

参考 Coggan&Coyle(1989)は、180分で疲労困憊に至るような運動の135分経過時にデキストリン溶液を摂取すると、低下していた血糖値が回復維持され、30分長く運動できたと報告しています。

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ガストリック・エンプティング(Gastric emptying)とは、胃から腸への移行速度のことです。
高い浸透圧のドリンクは、胃の中で水分に薄められてから腸に送られます。通常は胃からの水の分泌が円滑に行われますが、運動中は体内が水不足のため、なかなか薄めることができず胃に停滞します。溶液の浸透圧は、溶質のモル濃度(モル濃度=溶質の量/溶液の体積)に比例するので、分子が大きい方が浸透圧を低く保ちます。

溶質であるぶどう糖の濃度を高めるには、マルトデキストリン(ぶどう糖が5~10分子結合したもの)を用いると、血漿の浸透圧(280~300mOsm/kg、5%ぶどう糖溶液に相当)より低い浸透圧(低張)に設定でき、胃を速やかに通過して腸から吸収されます(糖濃度が高いとガストリック・エンプティングも当然遅くなる)。
逆に分子が大き過ぎるとでんぷんのように溶けにくく、ドリンクには適しません。マルトデキストリンは、単体のぶどう糖よりも胃から腸への移行が速く、かつサラッとしていて、最も効果的なエネルギードリンクの素材です。

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2. ナトリウム
適正塩分濃度0.1~0.2%に相当する、100mg中ナトリウムが0.5〜0.7g(V.カッチ、他著、田中喜代次、他監訳『運動生理学大辞典』西村書店)、1リットルあたり1.2〜1.8gの食塩(ACSM)が適正濃度です。
人の体液のミネラル濃度は、常に一定に保つ必要があります。もし、ミネラル濃度が変化すると、神経や筋肉の働きが制御できなくなり、最終的には心停止します。
汗には塩分(ナトリウム)などのミネラルが含まれているため、発汗に伴い、ミネラルも失われます。このときに、水だけを飲むと、体液が薄まってしまうため、無意識のうちに、飲まなくなります。これが「自発的脱水」です。
水だけを飲むと、体液が薄まってしまうため、自動的に尿量を増加させ、体液濃度を元に戻します。つまり、水を飲んでも、体液量は正常に戻りません。これも「自発的脱水」です。さらに問題なのは、この排尿に伴ってさらにミネラルが排泄されてしまうので、脱水状態が悪化します。汗と同じ濃さの食分濃度(0.1〜0.2%)の水を飲む必要があります。

口喝に任せて水を大量摂取すると、血中ナトリウム濃度が低下し、血液塩分濃度を一定(0.9%)に保つことができなくなります。
この状態で運動を続けると運動能力が下がり、体温が上昇して、熱けいれんなどの暑熱障害を引き起こします。このことを運動誘発性低ナトリウム血症(Exercise associated hyponatremia:EAH)といいます。

参考 ジョセフ・バーバリス教授(ジョージタウン大医療センター)
ある年のボストンマラソンでは参加者の約13%がEAHになった。2007年のロンドンマラソンでも1人が死亡。トライアスロンや軍隊の行軍などでも報告例があります。運動を続ける時間が4時間を超えるようだと注意が必要です。過去のマラソン大会の調査で、レース中に3ℓ以上の水を飲んだ人がEAHになるリスクが高かった(米国の医学誌スポーツメディシン2007.5月号)。

3. ビタミンB1
糖質の代謝のため必要です。

4. カリウム
汗1ℓ中200mgのカリウムが失われます。

5. カルシウム
汗1ℓ中20mgのカルシウムが失われます。

6. BCAA
分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシンン・イソロイシン)は、肝臓での代謝を必要としないため、筋肉でエネルギーとして直接代謝されます。

【タイミングと水分摂取量】
適切な水分量の確保のためには、運動前後に体重を計測が欠かせません。

1. 運動前の水分補給
運動前飲水(Pre hydration)として、2~3時間前からアイソトニックウォーターで体格・運動量に応じて約500~600mlを摂取します。

2. 運動中の水分補給
運動中の水分補給(Intra hydration)は、15~20分ごとに飲水をとることによって、体温の上昇が抑えられ
ます。
量としては、必要最低水分摂取量※1.もしくは発汗量の70~80%の補給を目安とします。

※1.必要最低水分摂取量
必要最低水分摂取量=体重×1kg当たりの必要水分量※2

※2.1kg当たりの必要水分量
成人(15歳以上)50ml、子ども(6~15歳未満)50~100ml、幼児(6歳未満)100~140ml
ただし、食事で平均1.5ℓ摂取しているため、上記の数値より1.5引いた値が純粋に水分として摂取すべき必要最低量です。

3. 運動後の水分補給
運動後飲水(Post hydration)は、運動後すぐにアイソトニックウォーターで体重減少分の70~80%を補います。
続いて、運動後1時間以内に食事によって運動前の体重に戻します。

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【温度】
外気との関連性を考慮して、摂氏5度~13(15)度位が、吸収速度が速いことが知られています。

冷たい飲み物は、胃腸の温度を7℃下げます。がん細胞は、35度台で活発に増殖することが知られています。

【飲水方法】
運動中の水分補給の仕方について、飲水時間を設けて強制的に飲ませる方法と個人のタイミングに任せて飲むことができるようにする方法という2通りが考えられます。

1.自由飲水
一般的な飲水方法ですが、注意が必要です。自由飲水を実施する前提条件として、

(1) 水分補給の具体的で自分にあった飲み方・知識・重要性を個人個人が会得しているということ。
(2) 常時、飲めるような雰囲気と時間的な余裕のある環境が存在すること。

これらの条件が揃っていれば、自由飲水は十分に機能します。自由飲水は、指導・管理者が十分な知識を持ち、更に運動する者自身も知識を持っていて始めて行える方法です。

2.強制飲水
個人に必ず飲水を義務付けるため、自由飲水に比べ熱中症の発生低くなるものと考えられます。休憩をこまめに取らざるを得ないため、暑いときの飲水方法としては適しています。また、好きなときに水分をとることよりも、定期的にとることの方が、体温上昇の抑制効果があったという研究報告があります。
特に高齢者の場合、口渇中枢の機能が低下している場合があるので、強制飲水の方が望ましいでしょう。

最も効果的なことは、自由飲水・強制飲水の両方を組み合わせて行なうことです。しかし、どちらかしか採用できないのであるならば、条件付き(前述の運動時の水分補給の目安を実施すること)で、強制飲水を行なうべきです。「熱中症は無知と無理から生まれる」と言われており、十分な体制があって始めて防ぐことができます。

【ポイント】
1. ハイポトニックウォーターで早め・こまめな水分補給
「のどが渇いた」と感じた時は、既にかなりの水分が失われています。

2. 練習前後の体重
運動前後に体重を計測して、発汗量の70~80%は最低限補給すべきです。

3. 尿の色と量をチェック
尿量が少なく、明るい黄色(ビタミンB1)や濃い黄色の場合は、脱水気味の可能性あります。その場合は通常より多めに水分補給します。

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参考文献
1. 日本体育協会(1995) スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック
2. 読売新聞 平成11年7月17日付け朝刊
3. 日本水泳連盟科学技術委員会(1987) 水泳医学入門
4. 日本赤十字社(1998) 救急法講習教本 3版
5. アスコム 暑さに負けないクールダウン健康本 五味常明
6. Newton  2012年8月号
7. ナーシングQ&A 全科に必要な栄養管理Q&A 、Q31体液喪失と電解質補給の関係は?(東口高志編集)、64-65頁、総合医学社(2005年)宮田剛
8. 認知症は水で治る! 田原総一朗

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