筋力増強運動の観点でのマッサージの利点

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クライアントのコンディション次第では、マッサージは運動療法という側面以上に、身体機能を向上させる効果をもたらすとも考えられている。マッサージには、筋力増強の効果も期待されるのである。

1)筋力が増加するメカニズム

筋力は収縮する筋線維の数×筋線維の断面積によって決定される。つまり収縮する筋線維質を増やす、もしくは筋線維が肥大して筋線維1本当たりの断面積を増やすことが出来れば、筋力は増加することとなる。

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(1)筋線維の収縮能力低下=筋力が低下する要因

筋力低下の要因のひとつである「筋線維が収縮力低下には、いくつかの理由が考えられる。

1.筋線維内にカルシウムイオンが貯留されている
カルシウムイオンの役割としては、アクチンとミオシンの結合を阻害するトロポニンと結合することで、アクチンとミオシンの結合を促して筋収縮を起こすことにある。

筋収縮の必要がない場合、カルシウムイオンは過度に筋収縮を起こさないよう、筋線維内に存在する筋小胞体に蓄えられている。

筋線維が損傷すると筋小胞体も破壊され、筋線維内にカルシウムイオンが放出。放出されたカルシウムイオンがアクチンとミオシンの結合を促進することで、筋が持続的に収縮した状態になってしまう。

2.筋線維内に発痛物質が貯留している
筋線維が破壊され炎症反応が起こる、あるいは筋収縮にて微細炎症が起こると、発痛物質が放出されて筋線維内に発痛物質が貯留。身体に侵害刺激が加わり、α運動ニューロンの閾値を低下させる。するとα運動ニューロンが容易に興奮され、筋が持続的に収縮した状態となってしまう。

α運動ニューロンが興奮し、筋が持続的に収縮すると、微細炎症や循環不全を引き起こし、新たに発痛物質が放出されるという悪循環を引き起こす。

3.筋線維内のATPが不足する
ATPは筋収縮・筋弛緩のエネルギー源であり、ミトコンドリアが酸素を消費することで生成される。筋線維が損傷するとミトコンドリアも破壊される。

筋繊維が損傷すると炎症反応が起き、筋が持続的に収縮することで微細炎症が起こる。このとき、破壊されずに残ったミトコンドリアはATPの生成を中止し、炎症反応を促進する活性酵素を生成してしまう。その結果、筋収縮・弛緩に必要なATPを生成できず、筋小胞体が破壊され筋線維内にカルシウムイオンが貯留することで、筋が持続的に収縮した状態となる。

こうした種々の状態が発生し、筋が持続的に収縮することで、適切なタイミングで筋収縮が起きなくなる。また持続的な筋収縮は微細炎症を引き起こし、疼痛増強、筋線維の損傷が悪化する可能性がある。

2)マッサージがもたらす筋力増強効果

マッサージを行なうと、筋線維内に存在する筋紡錘が振動刺激を感知し、α運動ニューロンの興奮を抑制する介在神経を興奮させ、筋を弛緩させる。

また、筋線維に温熱刺激を加えると循環不全が改善し、筋線維内に貯留していた発痛物質やカルシウムイオンが除去され、筋を弛緩することができる。筋が弛緩することで微細炎症が鎮静化→ミトコンドリアが活性酵素となり筋収縮・筋弛緩に必要なATPを生成する。

マッサージは持続的に収縮していた筋を弛緩させ、収縮できる筋線維数を増やすことができるため、筋力増強練習の一種となると考えられる。

マッサージの効果をかんたんにまとめると、次のようになる。

・クライアントのコンディションによって、身体機能を上げる効果がある(運動療法等の行為よりも、効果が高いケースも)。
・筋線維を肥大させ筋断面積を増やすことは難しいが、収縮する筋線維数を増やすことで筋力の増強(あるいは回復)が見込める。
・筋線維の収縮能力を失う要因(筋線維内のカルシウムイオン貯留、発痛物質貯留、ATP不足)を解消できる可能性がある。

3)注意点

筋の持続的収縮という問題を抱えているクライアントは、適切なタイミングでの筋収縮が難しい状態にある。そのため、この時点でトレーニング・エクササイズ等をはじめとした運動指導を提供すると、十分な力が発揮されないだけでなく、筋収縮がさらに促されることで微細炎症→疼痛の増強→筋線維の損傷という悪循環が、さらに激化されてしまう。

クライアントの状態を把握した上で、運動指導前にはマッサージで

・α運動ニューロンの抑制
・発痛物質とカルシウムイオンの除去
・ATPの生成

を促し、筋を持続的に収縮する状態を改善させる。そのうえで、運動指導により運動単位を増やして筋肥大させることにより、

・筋力は収縮する筋線維の数の増加
・筋線維の断面積の成長

この2点による筋力増強を目指す。

マッサージが筋力増強の効果がある一方で、数ある手技の一つに過ぎない。クライアントの状態に合わせ、指導方法を変える柔軟性が必要である。

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