栄養学の歴史~アメリカ編~

〈マクガバンレポート〉
1960年代、アメリカ国民一人当たりの医療費は世界一なのに対し、平均寿命は世界26位でした。
当時のアメリカは現在の日本と同様に、死亡原因の第1位は悪性新生物でした。

癌の死亡率を半減しようと、当時のニクソン大統領がアポロ計画に投じていた予算を癌の治療技術の改善に投じましたが、癌にかかる人は減るどころか増えてしまいました。

その後、1960年代後半から生活習慣病にかかる人が増え、心臓病の死亡率が第1位となり国民の医療費が膨れ上がり、心臓病の治療費だけでアメリカ経済がパンクしかねない状況でした(1977年には1180億ドル:約25兆円)。

そこで、当時のフォード大統領の時代に、治療より予防対策に費用を投じることに方向転換しました。

アメリカ上院栄養問題特別委員会(委員長:ジョージ・マクガバン上院議員)を設置しました。
医師、生物学者、栄養学者など多くの専門家を結集し、2年間の歳月を
要した調査の結果、「米国の食事目標(「Dietary Goals for the United
States」)」(通称マクガバンレポート)という報告書(84ページ)を
1977年5月に公表しています。

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マクガバンレポートとは、アメリカの食生活ガイドラインのプロトタイプです。(国保険福祉省のサイトの翻訳より)
報告で日本に触れたのは、1976年7月に行われた公聴会における疫学的観察を紹介した部分だけです。

「米国に渡って、動物性脂肪をほとんど含有せず、また乳製品をほとんど全くと言っていいくらいに摂取していない伝統的な日本式の食事から、西欧式の食事に転換する日本人においては、乳癌及び結腸癌の罹病率が劇的に増えています。」

「この資料は、1977年2月に米国上院の『栄養及び人間ニーズに関する特別委員会』が公表した『米国の食事事業(第1版)』の『改訂第2版』を翻訳したものです。

最初の報告の後行われた公聴会などの世界23か国から集まった200人以上の研究者の意見をまとめた第2版(124ページ)が同年11月に公開されました。
その後、チャーチル・パーシーとかエドワード・ケネディー(ケネディー大統領の弟)が、委員会に入り、調査を進めていきました。

参考 
マクガバンレポートの日本語訳:『米国の食事目標(第2版) 米国上院:栄養・人間ニーズ特別委員会の提言』(食品産業センター、1980)

『米国の食事目標 : 米国上院栄養・人間ニーズ特別委員会の提言』 第2版. [東京]:食品産業センター, 1980 126p ; 26cm  注記: 参考文献: p105-109〈EG257-G244〉
別タイトル: Dietary goals for the United States(2nd ed.)*この資料の「序」に以下の記述があります。

目標1 超過体重を避け、消費される範囲内のエネルギーだけ摂取すること。超過体重になった場合はエネルギーの摂取を減少するとともに、エネルギーの消費を増加すること。

目標2 複合炭水化物及び天然の糖分の摂取を増加し、エネルギー摂取量の約28%から約48%に引き上げること。炭水化物全体では砂糖と合計して58%とする

目標3 精製糖及び加工糖の消費を約45%減らし、エネルギー総摂取量の約10%に引き下げること。

目標4 脂肪の総消費量を、エネルギー摂取量の約40%から30%にまで引き下げること。

目標5 飽和脂肪の消費を減らし、エネルギー総摂取量の約10%を占める程度にすることと。また、ポリ不飽和脂肪及びモノ不飽和脂肪のバランスが取れるようにすること。この2種の不飽和脂肪が、それぞれエネルギー摂取量の約10%を占めるようにすること。

目標6 コレステロールの消費を1日当り約300mgまで減らすこと。
※補足
当時「コレステロールは悪者」扱いされましたが、今や日本でもコレステロールの摂取基準は撤廃されました。

血中コレステロールの約8割は肝臓を中心に体内で作られ、残りの約2割が食事からの摂取 で決まるからです。『厚生労働省が改訂「食事摂取基準」でコレステロールの基準を撤廃 』

目標7 ナトリウム摂取量を制限し、食塩の摂取量を1日当り約5gに減らすこと。
1990年に入ると栄養問題特別委員会は、アメリカの国立がん研究所(NCI)に対して、栄養(食事)と癌との関係を調査するように依頼し、結果は以下の通りです。

1.動物性たんぱく質の摂取量が増えると乳癌、子宮内膜癌、前立腺癌、結腸・直腸癌、膵癌、胃癌などの発生
率が高まる恐れがある。

2.これまでの西洋風な食事では脂肪とたんぱく摂取量との相関関係は非常に高い

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